僕らの音楽

夕べは飲みにでかけていたので、録画していたものを今日見た。出演は、平原綾香。しかし、彼女が目的だったわけではない。
目的は、歴史に立ち会うこと。
お笑いタレントがMC役となって、アーティストとのトークの中に生まれる笑いを番組のコアにすえる、「音楽バラエティ」という形態。10年程前に大ブレイクした現在の音楽番組の形態は、確実に斜陽である。この次の10年の方向性を示唆する、音楽番組の新機軸に挑戦する!というプロデューサーの宣言をHPで見て、歴史の立会人の一人になりたいという気持ちになった。その番組が、当たりかハズレかは関係なく、新しいものを生み出そうという姿勢には賛同するし、なによりそういった何かを生み出そうとするパワーには魅力を感じる。
この番組は、鳥越俊太郎というジャーナリストの視点から、アーティストに遠慮の無い質問がなされる。ニュースや週刊誌等で事件や事故の原因・本質をえぐり続けてきた彼の口からは、ニュースと同様に、歌手の本当の姿・特長を表に掘り出してくれる。その質問の遠慮の無さは、あくまで歌手としての魅力を視聴者に伝えるためのものであり、音楽バラエティの遠慮の無さとは全く異質。結果、暖かくて好感が持たれるし、何よりその歌手に対しての期待を抱きながらセッションを楽しむことができる。お笑いはその場での爆発力はあっても、番組全体への流れには繋がらなかった。その点で効果的だ。
また、自分の意見を通してくれるであろう彼をキャスティングしたことは、正解であったと思う。松任谷正隆を案内役に持ってきた深夜番組「トリセツ」(テレ朝)も楽しみにしていたのだが、残念ながら彼自身の案内ではなく、台詞の棒読みだった。15年程前の深夜番組好きな自分としては、去年「トリセツ」を見たときに もろ片岡K風味に仕立てているのを苦笑いしながらも、楽しみに見ていたのだが、この棒読み具合が気になってしまう。
ところで、この番組の視聴には、自分の中で2つのうれしい偶然があった。1つ目は、偶然にもこの番組は、私が好きでいつも見ている「情熱大陸」と同じ形態をとっているということ。かの番組のように、周りにいる人にしか分からない意外な側面を見せてくれて、対象の人物にぐっと近づくことが出来るのは、非常にうれしい。2つ目は、同じ日にBS2でやっていたCHEMISTRYのLIVE番組でも、生演奏に歌を合わせるというセッションをドキュメンタリー形式で表現していたこと。この番組を録画したのは本当に偶然で、昨日の出掛けにPSXの番組表画面でたまたま見つけて、何の期待もなしに予約したもので、よもやこのような偶然のめっけもんが出来るとは思ってもみなかったので、ただただうれしい。
総じて、「僕らの音楽」には好感が持たれた。台本至上主義が今日の番組制作の基本であり、時に「やらせ」と揶揄されるドキュメンタリー(風の)番組はとても嫌いだったのだが、最近になってようやく硬派なドキュメンタリー番組は面白いと感じられるようになってきていたところだったため、丁寧な番組作り臨むこの番組に魅力を覚えた。
「音楽ドキュメンタリー」という発想。
メール文化やネット文化が急激にその敷地を広げているが、しかし、未だ文化の中心はテレビ(をはじめとするマス・メディア)だ。よって、音楽番組のこうした試みは、音楽業界全体の動向に大きく影響する。新機軸の成功を、自分と同じ好感触を得てくれる人が多くいることを望む。
遅い昼食をとり、二日酔いの不快がようやく落ち着いてきたところで、半ば放心状態でこの「立会い」に臨んだ。冷たい雨が降る遅く起きた日曜は、この幸せな気持ちのまま、静かに過ごし、静かに終えたい。