ヒットらしいヒットドラマとそうでないもの

忘年会シーズンですが、アルコールにふらふらしながら夜な夜なワタクシが思ったことを長々と。

ぼちぼちドラマが終わっていきますね。今クールは、ここにほとんど感想を載せていませんが、4本見ていました(2本はまだ継続中、内ひとつは金八)。「新選組!」を合せたら5本のドラマを継続して見ていた3ヶ月でした。


ふと思うのですが、今どき、ヒットらしいヒットドラマって難しいですね。

今年の良作

例えば、今週終わった「新選組!」。49話すべて見ましたが、あれだけ高い作品のクオリティを保ちながら、数字的には「平凡」で片付けられてしまうのですから、残念でなりません(→http://www.videor.co.jp/data/ratedata/program/03taiga.htm)。緻密な脚本と演出がなされていて、隊士一人一人にとても深く思い入れが込められるので、前半の皆で力を合わせる姿に胸躍り、後半の死に別れていく描写にさめざめと泣いたものです。思い入れを持たせ、かつ巧妙に練られた展開と脚本、そして秀逸な台詞とその掛け合い。この一年、週に一度の楽しみとして見続けました。思い入れが強すぎて真っ当な判断ができないかもしれませんし、他の大河を見ていないので比較することもできませんが、このドラマが「平凡」の一言で片付けられるのは、あんまりだと思うのです。

そんな残念なドラマが今クールにもう一本。「一番大切な人は誰ですか?」です。第一話こそ15%台でしたが、以降は一ケタを低迷したまま終わっていったようです。

ここんとこ、日テレの水10は、とても丁寧な作品が提供されていて注目だったのだけど、今回も負けず劣らず良い内容であったと思います。簡単にこれまでの水10と比べ、ややシュールだったため好き嫌いは分かれたようですが、この「シュール」という便利な言葉を使って言ってしまえば、このシュールな会話が作品の良さであり、要と東子の元夫婦同士の掛け合いや、路留と小南との不思議な友達関係での掛け合いは、いずれもそれぞれの立場として放たれる台詞として、とても現実味と面白味を兼ね備えたものでした。以前のドラマのレビューで触れたことがあるかもしれないけれど、よいドラマとは、出演者たちの行動に対する「理由」が明確であること、だと私は思っています。そういった面で、このドラマは、ひょんなことから不思議な四角関係の中心に立たされる主人公がとる行動それぞれに、明確な理由があり、都度納得のいく掛け合いが用意されていました。
そして不思議な四角関係の中、ドラマのタイトルである「一番大切な人」に対して迷い、すべての女性キャラクターに均等に愛情を傾けてしまう夫・要が、最終回では、別れた東子とその娘・小南は過去のものとして清算し、一度は離れそうになった新しい妻・路留を「一番大切な人」として、改めて共に暮らしていくことを確認する。テーマに対して、言動と理由が明確で、改めて素晴らしい出来であったと満足したものでした。
しかし、結果は散々だった・・・。

白い巨塔」の再放送の意味

この年末、フジテレビは、近年のヒットらしいヒット作品である「白い巨塔」を再放送するようです。これは、今年はヒットが出なかったという強烈な嫌味(社内外への)のような気がして、なんだか寂しい気持ちというか、痛々しいように思うのは考えすぎでしょうか。
確かに、「白い巨塔」はヒット作にふさわしいクオリティであり、過去の作品の焼き直しでありながら、そこへ更に付加価値をつけたといえると思います。見えないところで少しずつ大きくなっていく「悪」について、取り返しの付かないものとしてしまった病院側の意向と、そこに正面からたち向かっていき、結果勝訴という目標を達成する原告側のそこに至るまでの心の機微と、それぞれの思いがひしひしと伝わる台詞の妙であり、巧みな展開の妙が用意されていました。間違いないヒット作品です。近作を見たものにとって「白い巨塔」とはコレだ!(過去の田宮二郎作品ではなく)と自信を持って言うことのできる品質であったと思います。

しかし、ここで思うんです。前述の二作品と「白い巨塔」、共に作品のクオリティは良いものばかりなのに、なぜ、片方はヒット作で、もう片方は「平凡」「低迷」だったのだろうと。

ヒット作とそうでないものの違い

(ここまで書いてきて、明確な答えが見つからず、泣き言を言えば、ここは問題提起で終わらせ、コメント欄に沢山の方々のご意見を賜りたい気持ちで一杯なのだが、そもそもこの日記はそんな沢山の読者を持っていないので、一つ自分でなんとなく答えに辿り着いて終えたいと思う。)


違いは、視聴者の期待との乖離だと思う。特に第一話目。


視聴者はある作品を見始める時点で、多かれ少なかれこれから見る作品に対する漠然としたイメージを持って臨む。そこで持っていたイメージに合っていれば、いきなり「これは名作」と喜び、そうでなければ、今作は違うのかな?という感情を抱いてしまう。もしなんの事前イメージも持たずに見た者は、その作品に対する率直な好き嫌いに別れるのだと思う。
前にあげた三作品は、それぞれそのパターンだったのではないか。

白い巨塔」を見る者は、多くは前作のイメージを持って、前作を見ていない者も暗い権力争いについての事前イメージを持って第一回に臨んだ。それに対しこの第一話は、前作のイメージを踏襲しつつ、それを超える展開と演出で見事応えた。視聴者を見事に引き込んだのである。しかも第一回に限らず、どの回も綿密な展開と伏線とラストとが用意されていたため、途中から見たものも、周りの評判により見始めた者にもどろどろのイメージを持ちつつ見始めた者にもストライクだったのである。

では、「新選組!」はどうだったか。この番組は、以前からの大河ファンと、今回の出演者を見た新参者とに視聴者層が分かれた。双方がいきなり見たので、初回視聴率はそこそこ良かったようだが、その第一回を見終えた結果、厳かな始まりを期待していた以前からのファンが大河から離れる一方で、いったいどんなものが来るのだろうと全くイメージを持たず、いわばノーガードで臨んだ新参者にとっては、小気味良い三谷回しの群像劇にやられて(心を掴まれて)しまい、あとはそのままずるずるとといった感じなのであろう。

もう一つ。「一番大切な人は誰ですか?」。この番組の第一回視聴者は、みなこれまでの水10ドラマファンがやってきたと思う。しかし、雰囲気が明らかに違った。無意味に用意されたとも思われる岸谷-佐藤隆太-鶴見のコントのくだりがあったり、主人公が何を考えているのか分からず意思を表さない一回目であったために、番組の方向性が見えづらかった。ドラマはだいたい初回の主人公の行動を主軸に話が展開していき、その主人公の目標に収束していく様子が描かれていると、そこに視聴者は引き込まれていく。第一回は、自分が「大切な人」が3人現れたが、残念ながら、作品は動揺する主人公を映して終えた。そこに視聴者の期待との乖離を生み、ハッキリしないまま(結局ハッキリするのは最終回なので、今思えば仕方ないのだけれど)展開が続くにつれ、どんどん視聴者をなくしていったのだろうか。


というわけで、結論として、ヒットのツボは(特に初回の)視聴者の漠然とした期待に応えられているかどうか、なのだと思う。


ちなみに、同じ要領でラストクリスマスを考えると、視聴者の多くははじめからひと昔前のドラマを見てもいいかなという気持ちでドラマに参加しているので、安定したキープをしているのだと思う。



最後まで読んでいただいた方、平凡な結論で申し訳ない。