重力ピエロ

きっちりとしたミステリーの骨格を、文学的なやわらかい肉体で包んだような、優しさのあふれる作品でした。
スクリーンに映し出されているシーンの多くは暴力や犯罪や差別など殺伐としたものが多かったのに、なぜか鑑賞を終えて振り返ると温かい感触が心に残っているのです。それは、終始笑顔で声をかける父・小日向文世がもたらしたものか、あるいは今は遠いところにいる母・鈴木京香の存在感なのか、またあるいは仙台の郊外という土地柄や木造一軒家が醸し出す雰囲気によるものなのか。
答えは見つからないですが、一つ言えることは、作品中に何度も前後する時間軸の中で常に変わらないものとして存在し続けた「家族愛」が、この作品に欠かせない要素です。それをクローズアップして、角ばった事象を丸く見せた演出は素晴らしいです。原作も読んでみたいと思います。