情報7daysニュースキャスター - ザ・対談:ビートたけし×松本人志

ここ2週間ほど、松本人志が映画「しんぼる」の宣伝で多くの番組にゲスト出演していて、率直に楽しかったですね。滅多に見られない異文化交流でした。
中でも、「情報7daysニュースキャスタ」ーの中で実現した たけし×松本 の対談は、頭ひとつ抜けた興味深い内容でした。


生番組をサボるたけしのナメた行動もあって企画自体は正直しょぼいものでしたが、二人の思いがけないマジな対話が見られたのは貴重でした。しかも会話の流れからではなく、たけしの口から唐突に切り出されたことが驚きでした。
これはすなわち、たけし自身 戻れなくなったお笑いの第一線で、旬の若手芸人たちが繰り広げている なんでもあり の攻防に、恐れともとれる憂いの気持ちの吐露なんですよね。一方の松本も、本人いわく「映画の世界に逃げてきた」と漏らし、やはりお笑いの戦場に感じる違和感にを正直に明かしています。中でも、今の風潮を表現する松本の言葉の選び方が面白いですね。以下、少しだけ抜粋。

たけし: なんかね、みんなね、今のタレントの人ね、生き急ぎしてるというかね、焦ってる感じがしてしょうがない。
松本: んー、まあ確かに若手なんかは、正直ちょっと歯車化してる感じはあるんですけどね。
(ナレーション: 今のテレビ番組は多くの若手芸人を起用している。その中で彼らは、芸人としてだけではなく、司会・リポーター・役者と様々な役割を求められている。たけしも松本も例外ではない。しかし、新しい挑戦を始めた松本、そしてテレビを飛び出し世界中をうならせたたけし。二人が見つめた今の芸人達とは・・・)
たけし: 若手の人、逆に言えば、ちょっとかわいそうじゃん、て。もうちょっとじっくりやらしてあげりゃいいのにと思って。
松本: んー、あとやっぱり、どうしても、すべり芸というか弱芸に逃げてしまいがちですね。だから、あれはちょっと僕は、お笑いで言うところのステロイドというか、それをやっちゃうと、あの、確かにその時はいいんですけど、どんどん身体がむしばまれていくというか、選手生命が短くなっていくなあという感じはしますね。

松本が言うところの「すべり芸」「弱芸」の卑近な例として、昨年のM-1グランプリがあげられます。
敗者復活でいきなり現れたオードリーは得意のわざとテンポを外すネタを繰り広げる。大オチの直前で噛んだ春日をアドリブでなんとか誤魔化す若林。このハズし方に場内爆笑。ネタを終えたところで「どこまでがネタなのか分からないですね」と添える司会の今田耕司。ほとんどの審査員が高得点をつける中で、唯一80点台をつけた紳助は「僕はあんまり評価しなかった」とした上で「どう見るかですよね」とコメントして、すべり芸を高く評価して良いものか戸惑う。高得点を与えた大竹まことも「噛んで面白いってどういうことだ」と、すべり芸に一本とられる。松本も「どんどん面白くなってきた」と、すべり芸が今の流行りであることを認める。しかしながら、この風向きを良しとしなかった紳助は、最終決戦を前に「すべらないでもらいたい」と釘を差し、結果、王冠は作り込んだネタをきちんとやりきったNon Styleのものに。
M-1の位置付けは、今現在見ることができる[テレビ×お笑い]の世界の中でも、全国区のエンターテイメントイベントであると同時に思いっきり硬派なコンセプトをキープしていて、その絶妙なバランス感を保つ貴重な番組です。紳助は大会委員長として、綿密に作り込まれたネタとそれを正確に表現する職人芸こそが称賛に値するという自身の硬派な頑固さをゆずらず、松本もそれに賛同していて、先人のその強い意志がこの番組の強みなんだと思います。現に、それを体現しているサンドウィッチマンNon Styleを高く評価し、「すべり芸」「弱芸」が流行ることによるお笑いの世界全体の品質低下を嫌いました。
が、世間は場を荒らしたオードリーに目を奪われてしまいます。これが先人の憂いなんだと思うんですよね。それを踏まえて振り返って松本の映画進出を考えると、お笑いの延長線上ではなく、お笑いからの決別なのかな、と。
そんな目線で「しんぼる」を観たいと思います。・・・楽しめなさそうですね(笑)