優しい時間 #10

梓は拓郎のことを「純粋で素敵な人。でも、すごくナイーブでかわいそうな人」と説明しました。まるで梓が自分のことを言っているように感じました。
拓郎と梓はよく似ています。
悲しい過去を背負い、心にも体にも傷を負っていて、繊細で、若くて、そして、若いが故にもろくて。まるで炉から出されたばかりの真っ赤な茶碗のように、触れるに危うい存在。
そんな拓郎に会うことを考え、何と声をかけて良いか分からずただ泣いてしまうのではないかと恐れるマスター。奥さんの言う通り、泣くだけでは、マスターの複雑な気持ちは通じないでしょうねえ。でも、赤く焼けた茶碗にどうやって触れて良いか、難しいでしょうねえ。